庭いじりとしての個人サイト運営
こちらは「個人ホームページ訪問 Advent Calendar 2024」25日目の記事です。
リンクや検索から来た方へ:
山下真澄(やました・ますみ)と申します。この個人サイトは、自分が読んだり見聞きしたりしたものの感想や、好きなものごとについて書くための場所です。
5年前に、わたしはこんなメモを書きました。
短くて強い言葉は一長一短だと思っているんだけど、先にバズったもん勝ちなところがある最近のSNSではその「短」の部分が無視されがち。
インパクトのある、短くて強い言葉が面白がられる。拡散されて同意を集めて、「世論」として取り上げられる。議論というのは、早押しクイズや大喜利とは違うだろう。丁寧に慎重に行われるのが大前提であるはずだ。
瞬発力が正義だというなら、熟考して主張を組み立てることは悪なのか。という私のモヤモヤも、もはや早押し大喜利大会と化しているタイムラインには放流する機会さえ見出せなくて、エスカレーターにいつまでも乗れない子どもみたいに二の足を踏むだけの日々が続いている。 インパクトこそが正義だと勘違いすると正気を失う - 📝wkpmm
さらに時を遡って、中学生の頃。実家のリビングに家族共用のパソコンが置かれてほどなく、わたしは四角い画面の中に広がる世界に夢中になりました。気になる単語を検索窓に入れてエンターキーを押せば、世界中の面白い情報が読める。それだけでなく、少しやり方を勉強すれば書く側にだって回れるらしい——。わたしにとってインターネットとは、職業や年齢に関係なく誰もが情報を発信できて、好きな物事について思う存分語ることができ、縁とタイミングが噛み合えば友人さえできるという、自由と可能性に満ちた遊び場でした。インターネットで遊べば遊ぶほど、自分の世界が広がっていくような感覚があった。Twitterを始めた時の高揚感は、その最たるものでした。
でも今はインターネットに対して、当時のようなわくわくした気持ちを抱けずにいます。
現在のSNSや動画プラットフォームは、とにかくキャッチーなものが求められます。短くて強い言葉――いわゆる“パワーワード”。見る人の感情を煽る刺激的なサムネイル。それらすべてが「読まないと損をする」「今を逃したら周りに乗り遅れる」とわたしをせき立ててくるような気がするのです。これを読んだ人は他にこれも読んでいます、今この時間にみんなが気にしているのはこのキーワードです。トレンド1位おめでとう。次の話題はこちらです。あなたにはこちらの商品もおすすめです。
Twitterを始めた当初、わたしを未知の楽しい世界に連れて行ってくれるもののように見えたタイムラインは、いつの間にか、飛び込むことができないほど速く、時に恐ろしく映るものになってしまっていました。『エスカレーターにいつまでも乗れなくて二の足を踏む』……あとは、先に引用したメモ書きの通りです。
コントロール可能な、小さな居場所をつくる
そうしてわたしは個人サイトを立ち上げました。気を抜けば情報の波に押し流されそうになるSNSの濁流から離れて、落ち着きを取り戻せる拠点を作ろうとしたんです。
当初は、他のwebサービスやSNSに書いてきたメモ書きをコピーペーストで持ってきただけのページがほとんどでしたが、それでもいくぶん心が和らいで、あちこちクリックしては長いこと眺めていたのを覚えています。他人の過激な発言が流れ込んでくることもなければ、急な仕様変更で景色が変わることもない。自分だけの小さな“庭”を手に入れた気分でした。事実、わたしは個人サイトの管理運営やメンテナンスのことを、よく「インターネット庭いじり」と呼んでいます。気になるところを剪定して、好きなものを少しずつ植えて、自分のペースで育てていくイメージで更新しているから。
大切なのは、家の中に引きこもって作業しているのではなく、あくまで庭を作っているのだという感覚です。
家の中にいるだけでは、他人からその様子は見えません。こちらから鍵を開けて、相手を個人的に迎え入れでもしない限り、交流は生まれない。でも、“庭”なら違います。
庭に出て、草木の手入れをしたりお茶を飲んだりしていたら、偶然通りかかった人が目を止めるかもしれない。もしかしたら、わたしが花に水をやっているのを見て「あの花、いい色だな。自分の家にも飾るか」と思うかもしれない。「昔、うちにも植えてあったな。懐かしいな」と思い出して、実家に連絡するきっかけになるかもしれない。そういうふうに、わたしが自分のペースで庭いじりをしていることが誰かの何かに作用する——その可能性を残しておきたい。
そしてそれは、わたしの知らないところで行われていて全く構わない。庭いじりをしているとき、通りすがりの人に挨拶されればもちろんこちらも言葉を返すし、その時ついでに「いい感じの庭ですね」なんて言われたら嬉しい。でも、別に何も言われなくてもいい。ここはわたしの庭なので、誰が来ようが来まいが、淡々と手入れし続けることに変わりはない。そのくらいの心構えでやっています。
わたしの興味はわたしだけのもの
買ったはいいものの読めずに積んでいる本がSNSでバズると、なんとなく興を削がれてしまう癖があります。最近まではこれを「わたしがあまのじゃくだからだ」と思っていました。一過性の流行につられたように思われるのが嫌なんだと自己分析していたわけです。でも、これは当たっているようで微妙に違っていたんだと、個人サイトを持ってわかりました。バズの情報量に押し流されて、わたし自身がその本に興味を持った理由を忘れてしまうのが嫌だった。自分を見失うのが嫌だったんです。
SNSも動画プラットフォームも、その時点でバズっている最新ニュースを次々に流すから、自分の興味もそのたびに切り替わってる気がしてくるけど、多分そうじゃないでしょう。「おすすめ」欄に表示されてるのはアルゴリズムが判断したブームであって、わたしのマイブームじゃない。わたしはいつ何に興味を持ったっていいし、何を苦手に感じてもいい。アルゴリズムが薦めてこなくなったものを後から好きになってもいい。わたしの興味はわたしだけのものだ。
他人の意見やアルゴリズムによるおすすめから距離を置くことのできる個人サイトなら、自分の好きなものや、その時々の感覚を、わたしのペースでゆっくり見つめながら書き留めておけます。SNSの流れが過熱すればするほど、ありがたみを感じる日々です。
環境や技術面のくふう
わたしの興味——ひいてはわたしの心を守るための庭づくりで心を消耗しては本末転倒なので、サイトの管理運営に関しては「無理しない」を念頭に置いてます。仕事でコーディングやデザインをやるわけでもない完全な素人ですしね。やりたいことと自分のスキルを比較検討して、妥協点を探る感じです。
……というか、この項、自分なりに詳しく書いてみようと試みたんですが、ぜんぜん収拾つかなかったので一旦諦めました。技術面に関してはQiitaやZennで本職の方々の記事を読むほうが絶対いいし、今回のアドベントカレンダーでも何人かの方がテーマとして取り上げていらっしゃいますね。自信を持ってそちらに譲ります。一応リストアップだけしておくと:
使っているもの(粒度ばらばら、順不同)
- サーバー: リトルサーバー(ミニプラン)
- 独自ドメイン: スタードメイン
- サイト生成: Hugo
- サイト生成の自動化: GitHub Actions
- 各記事のfavボタン: いいねボタン・改
- 連絡フォーム: ひとことフォーム コイブミ
- memoコンテンツ: てがろぐ
そのほか、ヘッドレスCMSとHugoのContent adaptersを使えばもっともっと楽できそうなので、じっくり勉強中です。凝り性と面倒くさがりを兼ね備えた人間は、自分が無理せず楽をするためなら手間を惜しまないんだよ。
でも結局のところ最も大切なのは、便利なツールや最新の知識ではなくて、個人サイトなんて持ってなくても別に生きていけるこの世の中で、なぜ自分がわざわざサイトを持つのかという意義を忘れずに持っておくことだと思います。
以上です
これからも自分のペースで、個人サイトという庭を大事に育てていきます。
昨今のインターネットに少し疲れを感じている人が偶然このページを通りかかったとして、「個人サイト、いいかもしれん。やってみようかな」と前向きな選択肢を持てたなら嬉しい。でも、別にそうならなくてもいいんです。この記事自体が、わたし自身のための庭いじりの一環だから。