2023-02-04

仕事終わりに、本を買うことにした。ポイントが貯まっていて500円引きになるので、ほくほくしながら新刊台を眺めていたら、ある1冊に目が留まった。

  • 『雪月花』

北村薫の新刊。これしかないでしょう。

小学生の頃から、北村薫が好きだ。柔らかい文体だとか、女性を描く解像度の高さだとか、推しポイントはたくさんあるけど、そのうちの1つが、巧みな比喩。通り一遍ではない、生々しい感触を呼び起こす比喩がすごいのだ。すごすぎて、特に印象に残ったいくつかをメモに書き留めてある。

まだまだ、残暑がきびしい。涼子が金魚だとしたら、面倒見の悪い飼い主の水槽にいるように、空気がどろんとうっとうしく、暑苦しい。 『元気でいてよ、R2-D2。』より

親明ちかあきは、もがくように手を動かした。何かを思いだしているらしい。くるくると手を回して、記憶の糸を巻き取っているようだ。 同上

涼子は仕事柄、単に大きい——というより、《でかい》といいたくなるバッグを脇に置く。紙類は、かさばる上に重い。 同上

雨の日もある。そういう時、池には、雨滴の作る波紋が、小皿を撒いたように広がる。 同上

弟が嫁さん貰うと、やっぱり行きにくくなったね。そう、どんどん《我が家》じゃなくなるから。
改築してもさ、あたしの部屋だったとこが残ってた。そこがさ、長いこと物置になってたんだ。だけど、去年から——甥っ子達の部屋になっちゃった。
——断りなしでも、そりゃ当然だし、文句いう筋合いなんかない。でも、ああいうのって寂しいよね。何かこう、大きなスプーンで、そそそそって、えぐられちゃうみたい。 同上

いいなあ。本当によい比喩ばかり。こういう比喩が書けるようになりたい。

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